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two sides of the same coin ~第3話~

正午を回った頃だろう。

燦々と照りつける太陽が見下ろす中、

人々は何事も無いように祭を楽しんでいた。

しかしそんなことには目もくれず、

彼女は頬を伝う汗を上着の袖で拭う。

「……こんなものか」

そんな一言を、吐き捨てながら。








区切りのついたビブリアは、自宅ではなく自身の運営する店、

リベルタス堂のある飛空庭へと舞い戻る。

『CLOSE』の札の掛かった扉を抜けると、見慣れた金色が出迎えてくれた。

「おぅ、おかえり」

「神様……ただいま、ビュートちゃんは?」

「ラボで見て貰った話だと、見た目に反して軽傷だとよ。
 ただ襲われた衝撃からか魔力が大幅に減少してるらしく、
 内部のダメージが大きいとさ」

「……」

「復旧には1日あれば大丈夫、とのことだが……」

「……なるほど」

「そっちは収穫あったのか?」

「なんならエンディングすら見えたかな」

「?」

不思議そうに反応するエラトスを横目に、

ビブリアは上着のポケットから手帳とデバイスを取り出す。

それらを仕事用のデスクへ置くと、彼女はゆっくりとイスに腰掛けた。

「あー……なぁ、我が娘よ?
 神はこのミステリーの答えから、
 そこに至るまでの途中式すらさっぱりだ。
 もしそこも含めて分かっているなら、良ければお聞かせ願えないか?」

「こんなもん、ミステリーでもなんでもないよ。
 まぁ、ちょっとややこしいというか、面倒臭くはあるけど……」

「はぁ……」

ぽかんとした顔を見せる彼を見て、やれやれと言うように軽く笑うと、

彼女はデスクの引き出しからある物を取り出した。

「……神様、コレ覚えてる?」

差し出されたそれは、青い液体の詰められた小瓶。

一見すればただのポーションだが、彼にはそれに覚えがあった。

「あれだろ、例の宗教団体に貰ったポーション……」

「ちょっとコレ飲んでみてよ」

「……………はっ?」

あまりに唐突で、淡々と切り出されたこの一言には

流石の土地神も呆然としてしまった。

言葉の意味や内容は理解もできる、

だが脈絡があまりにも無さ過ぎる。

頭の整理も兼ねて、彼は返答代わりに口を開いた。

「……奴等から貰った、如何にも怪しげなポーションを、
 俺に飲めって言うのか……?」

「うん」

「何故に……?」

「ちょっと確認したいことがあってね。
 大丈夫、私の予想が正しければ中身はただのポーションだから」

「……まぁ、お前の頼みだし、良いけどよぉ。
 仮に何か混ざってたとしても、俺に毒とか効かないしな」

観念したように、エラトスは差し出されたポーションを受け取った。

キュポンッ、と瓶のフタを外し、念の為にと軽く匂いを嗅ぐ。

特に問題はないと判断したエラトスは、そのままポーションに口を付ける。

ゴクゴクと飲み進めていくが、特に変わった味や臭いは感じない。

本当に普通のポーションじゃないか、と思いながら……




「害はないよ、『ポーションそのもの』は……ね」




その言葉が聞こえてきたのは、まさに飲み切ったタイミングだった。

瓶から口を離した瞬間、

「………ッ!!」

体内から急激な「違和感」を感じたエラトス。

だが、その「違和感」はすぐに治まり、

妙な感覚だけが余韻となって残っていた。

「今のは……体内の魔力が、奪われた……?
 いや違うな、消滅……と、いう表現の方が的確だろう……」

体内に蓄積されていた魔力の一部が、突如として消失した。

彼は「土地神」という人間とは根本の違う存在である故に、

その「違和感」を自覚し、被害も軽微され、脅威的な速度で回復した。

元々の魔力量も膨大であった為、大事には至らなかったのだろう。

「やっぱりか……」

そんな一部始終を目の当たりにしていたビブリアは、

この結果で何かを確信したようだ。

まるで分かっていたような口ぶりの彼女に対し、

エラトスは困惑しつつも問い掛けた。

「……おい、こんなヤバイ代物を飲ませたことについては
 大目に見てやるとして、だ。
 コイツは一体何だ?
 ただのポーション、とは思えねぇが」

「さっきも言ったけど、ポーションそのものは
 普通のポーションなんだよ。
 でも、」




「問題はそっちの『瓶』のほう」




エラトスの握る小瓶を指差し、そう彼女は言い放った。

「瓶、って……コレか?」

「その瓶にはちょっとした術式が組み込まれててね。
 口を付けた際に感知した魔力により起動、
 中身を飲み切ることで術式が発動するようになってるのさ」

「だが、この瓶からは魔力の欠片も感じられんぞ?」

「その術式は『魔力と共に消滅する』からね。
 一定量の魔力を吸い上げた後、魔力と共に術式は消える。
 瓶からも体内からも痕跡は残らない、……ってね」

「ほう……人間という奴は、随分と変わった術を生み出すものだ。
 使い方次第では医療技術の発展にもなるだろうに」

「あー、うん、元々は魔力暴走を防ぐ為に開発してたんだけどね。
 まぁ、こうなるから公にしてないんだけど」

「あ?」

「ともあれ、これがこのポーションの仕組みであり、
 そして巷で出回ってる違法ポーションの正体ってわけ」

「なるほど、そういう……ん?
 いや、ちょっと待て。
 違法ポーションというと昨日の……」



『本物と酷似した違法ポーションの流出が発覚。
 依存性が高く、強い幻覚作用があるとの報告も……』




「……あれのことか?」

「そうそう、それ」

「だったら可笑しいだろ。
 もしコレが件のポーションと同じであるとすれば、
 幻覚作用とやらはどうなる?
 俺は効かない、とはいえ、作用があれば気付くぞ」

「神様、その流れで思い出してみて欲しい。
 もう1つ、今このアクロポリスで起きてる事件があったよね?」

「あぁ……確か、」



『多発する通り魔事件、被害者全員が魔力欠乏で昏睡状態。
 騎士団は魔物の可能性も検討し、事件解決を急ぐ……』




「という……」

「それそれ」

「確かに魔力欠乏、ということなら合ってるだろうが、
 これは全く別の事件だろ?
 それに幻覚作用の有無について、何の説明にもなってねぇ」

「違法ポーションによる幻覚作用ってね、
 面白いことに被害者全員が
 口を揃えたように同じことを言ってたらしいよ」

「はぁ?」

「何者かに襲われた、ってね」

「そうか……。
 それで、幻覚作用の有無は」

「はーい、ではココで問題です」

「話聞けよ」

「そんな案件が立て続けに発生した場合にそれに対処し、捜査し、
 世間に「幻覚作用のある違法ポーション」なる存在と
 「何者かによる通り魔的事件」という情報を開示。
 ……それを広めたのは、一体誰でしょう?」

「そりゃあ、普通に考えれば……なるほど、そういうことか」

「流石に気付いた?」

「あぁ、随分と面倒なことしてんなぁ……」

「違法ポーションによる幻覚作用、
 何者かに襲われた、という情報は幻覚ではなく真実で」

「実際に襲った後、何らかの方法でポーションを飲ませる。
 被害者の肉体にはポーションにより外傷は残っておらず、
 結果としてそれは幻覚として処理された」

「しかしそんな案件が複数寄せられれば、流石に捜査される筈。
 そうなれば、それが幻覚ではなく真実であることは分かっただろう」

「しかし、そうはならなかった。
 それどころか、全く違う事件として情報は変化し、
 世間へと広まった」

「そんな間違いがあれば、彼等が黙っている筈がない。
 だが、彼等は訂正どころか
 その間違いを間違いとすら思ってはいなかった」

「何故なら」





「「混成騎士団がこの事件に関与しているのだから」」





「……まぁ、混成騎士団といっても、
 その中のごく一部の人間のことだろうけどね」

「まさか混成騎士団の情報が嘘偽りであると、
 世間は思う訳がないからなぁ。
 これ程までに都合の良い手駒は無いぜ」

「被害者を襲ったのはそれこそ例の宗教団体で、
 その被害を訴える時、グルである騎士団員から
 ポーションを貰った……とか、そんなところだろうね」

「あるいは偶然を装って……か?」

「騎士団から差し出されたモノだからまず疑うことはなく、
 被害者はそれを飲んでしまった。
 そして魔力欠乏となり、昏睡状態にまで陥った」

「そしてグルの騎士団員は、「襲った」後に「違法ポーションを飲ませ」
 「ポーションが原因の魔力欠乏による昏睡状態」の事実を
 襲われたという「幻覚を見せるポーション」と「第三者による襲撃」
 それによる「魔力欠乏と昏睡被害」と偽った」

「違う事件とすれば、疑いの目は分散されるし
 より多くの混乱を呼ぶことが出来る」

「そして混乱に乗じて、連中は宗教勧誘ってか……嘆かわしいねぇ」

「今回のビュートちゃんの件も、手口としては同じ。
 まず、連中に襲われたことから始まるんだろうね……」

「問題となるのは、奴等が「どうやってダンビュライトを隠し」、
 そして「突如として現出させたのか」……ということだな」

「まぁ、大したことなかったけど」

「え?」

 
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two sides of the same coin ~第2話~


「お祭、明日の夜までやってるみたいだね」

ジュースのカップを片手にパンフレットに目を通し、

そう悠々と語るのはビブリアだった。

その様子は違和感を感じる程に平然と、いつも通りの彼女だった。

「夜も結構イベントやるんだねー。
 えーっと……東西南北それぞれの国をイメージ。
 アクロポリスへ集結するパレードカーの行進は二夜連続、
 夜の部の19時より開始予定。
 是非お楽しみに……ですか」

「また最終日の20時には盛大な花火ショーも予定。
 雨天の場合は中止となります、ご了承下さい……と、あります!」

「はい、注意事項までご丁寧にありがとねビュートちゃん。
 んー……でも、イマイチ惹かれはしないかなぁ?
 2人はどう……」

気さくに声を掛けつつ振り向く彼女だが、

1歩後ろを歩く男性陣はと言えば………

「……」

「……」

エラトスは何やら考え込んだ表情をし、

ゾリューシュカは不貞腐れながらライドパートナーに跨っている。

お世辞にも、機嫌が良いとは言えないだろう。

その理由は明白だ。

「……2人共、まださっきの気にしてるの?」

「………え?
 あぁ………スマン」

つい先程の、奇妙な宗教団体との接触。

自分達の思想こそが正しいと、一方的な正義を振りかざす。

そんな無礼で不気味な集団との出来事が、

未だに引っ掛かっているようだ。

「そんなに目の前で自分以外の神の話をされたの、
 気に入らなかった?」

「人間が何を神とし、崇めようがそれは自由だ。
 それは理解しているし、気にはしていない。
 それとは別に、気になることがあってな……
 気のせい、であるとは思うがな……」

「……まぁ、深くは聞かないけどね?
 ゾル君は、どうしたのって触れても良いのかな?」

「……ボク、納得してないからね」

「納得……もしかして、悪魔がどうのってこと?」

「自分達の思い通りにならないからと暴言を吐き、
 古臭い思考で種族差別までほざく馬鹿な連中。
 何故、そんな奴等を見逃さないといけないのか……
 理解できないよ、口答え出来なくしたって良いだろうに」

「いや、それやったら捕まるの私……」

「名誉棄損なんだ、然るべき処罰を与えるべきだ。
 なにより、ボクはキミという存在を侮辱したことが許せない」

「あの程度の暴言なんて言われ慣れてるし、
 変に騒動になるほうが面倒だもの。
 気持ちは嬉しいけど、あれで良いんだよ」

「だけど」

「私の為に、キミがこれ以上怒る必要はないんだよ」

一見優しく穏やかな口調と表情だが、

彼女の瞳は決して優しくはなかった。

その瞳が物語る真実は「黙れ」という命令の意思。

言葉無き命令は、それでも背筋が凍るかのように鋭く冷たい。

「………わかった」

渋々ではあるが、彼女の逆鱗に触れたくはない。

くぐもった声で、ゾリューシュカはそう答える。

「……私の為に怒ってくれて、ありがとねゾル君」

それに対してビブリアは、返事と共に優しく彼の頭を撫でる。

彼の眉間の皺が、少し薄らいだように見えた。




「当機が単独行動をしている7分と23秒の間、
 何かございましたか……?」




1人置いてけぼりとなっているダンビュライトは、

そんな3人の様子を心配そうに見つめている。

内面が少々幼い彼女には、この空気は居心地が悪い。

加えて、一部始終の一切も知らない為に話が今一つ理解出来ず、

自分だけが何も出来ない。

そのもどかしさが「家族」として、寂しいのだ。

しかし、

「……ちょっとしたアクシデントのお話だよ。
 ビュートちゃんは心配しなくても大丈夫」

そんな思いと裏腹に返って来たものは、

優し過ぎる気遣いと、困ったような笑みだった。

聞きたかったもの、見たかったものとは違う。

だが、それでも、

「……かしこまりましたっ」

我儘を言って、これ以上困らせたくはない。

心臓部に僅かな軋みにも似た衝動を感じながら、

ダンビュライトは「納得」するのだった。











二度あることは三度ある、と言うだろう。

ほんのりと風の冷たい早朝。



事件は突如として、その幕を開くのだ……。



「緊急事態かもしれん、起きろ娘よ」

柔らかな羽毛の感触に包まれ、意識を漂わせていた時だったろう。

そんな至福の瞬間を打ち破るかのように、

前触れもなく目の前に現れる、見慣れた淡い金色の髪。

薄らと開いた瞳がその姿を捉え、それを脳が認識するのには時間が掛かった。

彼女は今の今まで眠っていたのだ、なんなら未だに寝ぼけている。

数秒の間が空き、再び顔を布団で覆い、かと思えばその数秒後。

「ギャフンッ!!」

布団から飛び出す、華麗なまでの右ストレート。

それは見事にエラトスの顔面に命中したのだった……。








「ビュートちゃん、いつもはどの辺りでっ?」

そう、私服姿のビブリアは走りながら問い掛ける。

問い掛けの矛先であるエラトスは、彼女のすぐ傍を飛空しながら着いていく。

「6時半の起動からのヴァイオリン練習だと、家の前以外だと噴水の前だ。
 6時の起動からの場合は平原もあるがな」

「はぁ!?
 噴水って、どの噴水だよ地味に多いぞアップタウン!!」

「俺にキレんなよ、なるべく人目に付く場所と指定したのはお前だろ?
 まぁ、その日の気候によってバラバラみたいではあるが、
 基本的には聖堂前の噴水で練習してたらしい」

「はっ、はぁっ……れ、練習って、どのくらい……?」

「いつもは練習って言っても、せいぜい30分程度だ。
 アイツは行動における時間管理には正確だからな、
 そこに大きな誤差はないし、終わればすぐに帰って来てた」

「でも、今は10時前……ハァッ、うちの店にも居なかったし……」

「加えて、奴の魔力も感知できねぇ……まず、大丈夫ではねぇだろうな」

「くそっ、何処行ったんだよぉ……!!」

ダンビュライトが帰って来ていない。

DEMとしての特性なのか、時間に正確な筈の彼女だが、

今日はいつもは自宅に居る筈の時間に姿が見えない。

連絡もしたが繋がらず、行方不明となっている。

それがビブリアが起こされた理由であり、

今こうして2人が街を駆け回っている理由だ。

昨日に引き続き開幕した祭の中、賑わう人の波を避けながら、

彼女はがむしゃらに走り回る。

不安と焦りに駆られながら、僅かな希望を夢見て走り続ける。



しかし現実とは無情であり、非情なもの。

その僅かな希望は、

ドサッ、という音1つで、

こうもあっさりと打ち砕かれるのだ。



「うわっ!?なんだ!!?」
「きゃあ!!ひ、人がぁっ!!」
「いや、待て、こいつぁDEM……じゃ、ないか……?」
「……酷く、壊れていますね」




見覚えのある、短い髪と髪飾り。

綺麗に整えられている筈のスーツはボロボロで、

腕や足からは金属部が所々で露わになっている。

傍らには、半分ほどが欠けてしまった大きなゼンマイが転がっていた。

「………っあ」

少し離れたこの位置からでも、どうやったって見間違えることの出来ないその姿は、

彼女の意識を完全に奪い去っていく。




間違いなく、あそこに倒れているのはダンビュライトだ。




「ごめんなさい、そこ通してっ!!」

次第に集まる野次馬を掻き分け、

その横たわる少女の元へと駆け寄るビブリア。

エラトスもまた、後を追うようにその場へと走り寄る。

「……無事とは思ってなかったが、まさかここまでとは」

近くに寄れば、尚のこと状況は酷かった。

ダンビュライトからは意識どころか魔力の欠片も感じられず、

物云わぬ人形のように、静かに横たわっていた。

そんな彼女の頬にそっと触れ、ひと撫ですると、

徐にその口は開かれた。

「……神様、この辺り一帯に『認識阻害』ってかけられる」

脈絡のないビブリアの問い掛けだが、何かを察したのか、

エラトスは溜め息交じりの笑みを見せる。

「まかせておけ。
 文字通り、朝飯前だ」

軽く両の手を合わせると、生じた音が波紋のように広がるかのように、

周囲一帯に僅かな風が生じる。

かと思えば、辺りを取り囲んでいた筈の人々が1人、

また1人と次第にその場から離れていく。

1分としない内に、出来たばかりの野次馬は跡形もなく解散された。

まるで、初めからこの場所には何も無かったかのように。

「……俺の認識阻害は、あくまで一定以下の人間の視界から不可視となるだけだ。
 一定以上……それなりの力や強さ、異能を持ち合わせた人間には
 どうしたってこの違和感を察知されるだろう。
 調べるなら、急ぐに越したことはないぜ」

「分かってる……。
 その間、ビュートちゃんをラボまで運んでおいてくれる?」

「了解だ」





ダンビュライトを担ぎ、エラトスがその場を後にする。

これにより、今この辺り一帯には他に人はおらず、

ビブリアだけがその場に立っている。

彼女は怒りを噛み殺すように小さく歯軋りだけすると、

周辺の捜査を開始せんと動き出した。

ビブリアがいるのは白の聖堂の裏側、

東アクロニア平原へと出る出入り口を目の前とする踊り場の噴水前だ。

現在、この場所は祭に伴い「腕試し大会」の会場となっていた。

目印と思われる看板には、武器を構える者、ケガをしているが笑顔を見せる者、

更には酔っぱらいの姿と、様々な人物の姿がコミカルに、

そして立体的に描かれていた。

しかしよく見れば、噴水の傍だからか所々が濡れてしまっている。

「……」

惜しいのか、彼女は看板の濡れた部分をじっと見つめている。

と、

「……ッ!」

看板の奥から、なにやら強い光が輝いた。

眩しさに一瞬怯みつつ、彼女は光源の元へと歩み寄ってみる。

すると、そこには小さな空き瓶と派手な三角形の布が落ちていた。

「これは……」








two sides of the same coin ~第1話~

アクロポリスのとある一角、人知れず降ろされた1本の紐。

その紐の先に繋がる飛空庭で、


「ふぁあ~ぁ………」


今日も「しがない1日」は始まるのだった。

「多発する通り魔事件、被害者全員が魔力欠乏で昏睡状態。
 騎士団は魔物の可能性も検討し、事件解決を急ぐ……。
 本物と酷似した違法ポーションの流出が発覚。
 依存性が高く、強い幻覚作用があるとの報告も……」

と、ビブリアは紅い髪を整えながら、新聞を黙々と読み上げていく。

そんな彼女はまだ眠そうで、新聞から目を離さないままカップを口へと運ぶ。

「なんだなんだ、朝から物騒な事件ばかり読み上げて」

そんな彼女を呆れたように笑いつつ、エラトスは出来立ての朝食を差し出した。

温かいクロワッサンに半熟の目玉焼きと濃厚なビスクスープ、

シンプルだが食欲をそそるメニューばかりだ。

「そんな記事しか無いの、物騒でつまらない記事しか、ね?
 でも、どれも普通に生活していれば関係のない事件ばっかり」

「少なくとも、自分が安全で平和なことは良いことじゃないか」

「でも、同時に面白みも刺激もないけどね……いただきます」

何事もない日常を残念がりながら、彼女は新聞を畳むと朝食に手を付ける。

クロワッサンを一口かじれば、熱と共に広がるバターの風味。

そしてサクッとした軽やかな食感に、思わず顔がにやける。

この頃は何も起きず、ただただ平和で静かな毎日に退屈を覚えているが、

それでもご飯が美味しいので別に良いか、と彼女はその口福を噛み締める。

また、エラトスはそんな彼女を満足そうに見つめるのだった。

「……まぁ、平和だからといって退屈なのは考え物だよな。
 適度な非日常があるからこそ、日常にもメリハリが出るってもんだ」

「そうなんだよねぇ……でも、寂しいことに何も無い。
 何か無いかな、良い意味での非日常……」

おかわりを勧められたが遠慮しつつ、彼女は最後の一切れを口に押し込んだ。

そして何気なく畳んだ新聞を適当にめくってみると、

「………おっ」

とある記事が彼女の目に留まった。

「ねぇ、神様ー?」

「んー?」

「今日って暇だよね?」

「俺に限らず、今日はダンビュライトもゾリューシュカも家で暇してるぞー」

「なら丁度良いね」

「何が?」





「お祭行こう、皆で!」










澄んだ青空と、そこに打ち上げられる無数の花火。

至る所に出店が並び、陽気な音楽が街をほろ酔いにさせる。

祭会場と化したアップタウンにやって来たビブリアとエラトス、

そしてダンビュライト、ビュートとゾルことゾリューシュカの4人。

いつもと違う街の様子に、つい浮足立ってしまうものだ。

「いいねぇ~この賑わいっぷり!」

「これだけの人数が一同に賑わっておりますと、
 同調行動もあって自ずと楽しくなって参ります!!」

「ねー♪」

「はいっ!」

「……人が多いだけなのに、よくあれだけ盛り上がれるものだね。
 女の子ってのは雰囲気に酔いやすい、とは聞くけど……理解しにくいよ」

やれやれ、とは思いながら、楽しそうな笑顔を見せるビブリアをじっと見つめる。

それだけでも来た甲斐はあった、と密かに思うゾリューシュカだった。

「まぁ、そう言うなよゾリューシュカ。
 良いじゃないか、2人共楽しそうで」

「DEM子のことはどうでもいいけど……神サマ、随分大人しいじゃないか。
 こういう時、一緒になって盛り上がるキャラなのに」

「……祭ってのは元を辿れば祀る、神霊を慰める儀式だ」

「………?
 神なんだし、尚更喜べば良いじゃないか」

「こういうのは、特定の神霊だけを祭ってんの。
 他の神を祀る儀式に参加するっていうのは、なんともなぁ……」

「元々はそうでも、今はただ飲み食いして遊ぶだけのイベントだろう?
 少なくとも冒険者エラトスの時は、
 そういうの気にせず楽しんだって罰は当たらないと思うけど」

「そういうもんかねぇ……」

「……そもそも、これって何のお祭?」

「ふーむ……そういえば……?」

「2人共、何の話してるの?」

丁度良いタイミング、とばかりにビブリアが声を掛けてきた。

ダンビュライトの姿が見えないが?と尋ねれば、

パンフレットを貰いに行っているとか。

「大したことじゃねぇけど、この祭はどういった祭なのかなー……ってな?」

「どういう………なんだろうね?」

「「知らないの(か)?」」

「新聞の広告に載ってる情報なんて、日程とかその程度よ?
 今日のこの……えーっと、お祭の名前なんだっけ……」






「この『ヘー・ゲネトリオス』は、我らが崇めしヒュポクリシス様の祝いの儀。
 この世界に現れ出でて下さったことに感謝し、皆で祝う為の催しです」






数多の声が飛び交う人混みの中、その声は確かにこちらを向いていた。

声のする方へと顔を向ければ、5~6人程の集団が立っていた。

その全員が顔を覆い、全身を隠す程の長い純白のローブに身を包んでいる。

この賑やかな祭の雰囲気と懸け離れたその姿は、あまりにも異質だ。

なんだか不気味だ……そう思っていた矢先、向こうから1人が歩み出てきた。

先頭に立っていたその人物は他とは違い、

魔法陣らしきものの描かれた大きめのネックレスを下げている。

おそらくこの集団の代表なのだろう、と、ビブリアは推測する。

「もし宜しければ、お近づきの印にコチラをどうぞ。
 この祭に参加して下さった方にお配りしているポーションなので、
 あまり大それたものではありませんが……」

「はぁ……どうも……」

「ヒュポクリシス様は全てを認め、全てを許し、そして我々を正しく導く存在。
 己の罪を自覚し、反省すれば、全てをお許しになることでしょう。
 全てを受け入れて下さることでしょう。
 性別も年齢も種族も関係ありません、皆が平等に正しく過ごせるのです。
 素晴らしいとは思いませんか?」

「……えっと、いきなりのことで、どう返せばいいのやら」

新手の宗教勧誘か、面倒くせぇな……。

などと心で毒を吐きながら、適当な言葉を返す。

そもそも、すぐ傍には冥界と人間界を守護せし神、土地神のエラトスがいる。

気付いていないとはいえ神の前で宗教の勧誘をするとは、

それこそ罰当たりではなかろうか。

現に、エラトスの顔からは先程までの笑みは無く、冷たい視線を向けている。

しかしそんな事とはつい知らず、相手は言葉を続けていく。

「あなた達はこの祭事に興味を抱き、その意味に興味を抱いた。
 きっとその意味を知り、我等が信念を聞けば、共に同じ道を歩めるでしょう。
 どうでしょう、共に平等なる世界の為に参りませんか?」

「あの……その、申し訳ないですけど、そういうのは間に合ってるんで……」

「突然のことですから、少し理解が追い付いていないのでしょう。
 でも大丈夫、なにも心配することも不安に思うこともありません。
 我々は導きのままに、御心のままに進めば良いのですから」

「いえ、ですから、私そういうのは……」

こちらの話を聞いていないのか、聞いた上であえてそうなのか。

断ろうとすれば言葉を被せ、強引に尤もらしい理由を並べる。

勢いに飲まれれば一種の暗示状態となり、承諾してしまうだろう。

勧誘とはそういうものである為、仕方がないのかもしれないが流石にしつこい。

痺れを切らしたビブリアは、やれやれと溜め息をつく。

そして、苛立ちを込めてこう言葉を吐き捨てた。




「悪いけど、うちは悪魔宗教なので」




その発言に、白ローブの集団は騒然とする。

「なんということだ」
「司祭様直々のお誘いを断るとは」
「まして悪魔を崇めているだと、悍ましい」

口々に好き勝手な言葉を並べ、軽蔑と憐みの視線を送る。

その様子に、ビブリアは勿論だが他の2人も呆れている。

よくもまぁ、ここまで態度が変わるものだ、と……。

しかし相手は気付いてないのか、己の常識が通じないことに動揺してるのか、

未だに動揺の声が治まりそうにない。

「これだから汚らわしい悪魔族は」

そんな、種族差別までもが飛び交い始め……。



「オイ」



ひぃっ、と小さな悲鳴が聞こえてくる。

見れば、ナイフを突きつけられる白ローブが1人、

そしてそのナイフを突きつける少年……ゾリューシュカの姿があった。

先程まで肩に乗っていた小柄な容姿とは変わり、

一般的なエミル族と変わらぬ大きさの彼が立っている。

瞳は静かな怒りに満ちており、敵視の上で相手を見下していた。

「平等を謳う割には、断られた途端に種族差別だなんて笑えるね。
 あぁ、全てが許される教えだから種族差別をしても良いって考えなのかな?
 まぁ、どっちにしてもだ………彼女への侮辱は許さないよ」

首元へ向けられたナイフの先端が、じわりじわりと近づいていく。

男は逃れようと後退りするが、腰が抜けているのか動けないらしい。

次第に周りの人々も異変に気付き始めたのか、徐々に視線が集まっていく。

だが、そんなことは彼には関係ない。

彼の中にあるのは、相手をぶちのめしたい、それだけだ。

「あぁ、もう面倒臭いや。
 いっそ一思いに片付けて……」

「こーらゾル君、やめなさい」

「我が同胞、貴方もです。
 口を慎みなさい」

これ以上の余計な混乱と問題は避けたい。

それは同じようで、寸前で双方の代表が間に入り、それぞれを宥める。

ゾリューシュカは渋々ナイフを仕舞い、元の小柄な容姿へと姿を変える。

腰を抜かした白ローブも、周りに支えられながら後ろへと下がっていく。

「ごめんなさいね、うちの者がとんだ無礼を」

「いいえ、こちらこそ大変失礼を……。
 お互い、この件はこれで不問と致しましょう」

「えぇ、それはもう。
 ……じゃあ、そろそろ祭を堪能させて貰おうかな」

「えぇ、存分にお楽しみ下さい。
 そして……もし、我等が志を共にしたくなりましたら、
 その時はいつでもお待ちしておりますので」

胡散臭い愛想笑いを返事代わりに、ビブリア達はその場を離れる。

その後を追うように、他の2人もその場を後にする。

集団とその代表は、その背中をただ静かに見つめている。

ようやく戻ってきたダンビュライトと合流する様子まで、じっと見つめている。

『気になる屋台あったー?』
『モモンガ焼き!』
『え、モモンガ食うのか?』


和気藹々と過ごす4人を、不気味なまでに見つめている。

その眼に映っているのは、勧誘を断った無礼者としてか、

刃を向けた野蛮人としてか、

あるいは別の何かなのか……。






「罪人には、己が罪を導きましょう」










「らっしゃいらっしゃい、出来立てのジャンボたこ焼きだよー!」
「熱気で温まった身体に、冷たいハイボールなんていかがですかー?
 あ、そちらのお客さんどうですか?」
「さぁさぁ、腕に覚えのある者同士のバトルは見物だよー!
 腕自慢大会、飛び入りも大歓迎だよー!!
 なんなら力作の看板だけでも撮ってっておくれ!!」
「ママーおっきな風船ー」
「ファーイースト産のミルクを贅沢仕様、
 極上アイスの最後尾はコチラでーす!」
「タイニー焼き、タイニー焼きはいらんかねー?」
「おぅ、そこの金髪のお姉ちゃ……いや、お兄ちゃんか。
 どうだい、ハイボール安くしとくぜぃ?」
「豪華賞品も目白押しな射的だよ、1回100Gで遊べるよー!」




「やたらとハイボールを勧められる件について」



「ハイボールっぽさが滲み出てたんじゃない?」

「なんだよ、ハイボールっぽさって。
 好きだから良いけどさぁ………」

「ん~~~……」



「このふわふわ肉の炭火焼き、おーいしー♪
 表面はカリッとしてるのに口に入れるとふわぁ……と溶けて、
 でも脂っこさはなくて、軽いのにお肉を食べた満足感はしっかりしてる。
 少し多めの塩コショウが肉の脂の甘みを引き立てて、何本でも食べれそう!
 これならご飯に海苔と一緒に乗せて、どんぶりにして食べたーい♪」

「スティックカレーピザ、なんて名前からしてオシャレだけど、
 もっちりした生地とそれに包まれた辛過ぎないカレー、
 ミルク感が強くて塩気も効いたチーズがトロ~っとまとめてて美味しい!
 一緒に入ってるきのことベーコンと……ナッツ、かな?
 具沢山で食感のアクセントも楽しくて、お値段以上だねー♪」

「こういう粉もん料理、如何にも屋台って感じがして良いよねー♪
 生地に出汁とキャベツを混ぜて焼いて、割りばしに巻き付けて、
 仕上げにソースと目玉焼きを乗せただけなのに……
 食欲を刺激する香り、出汁の風味とキャベツの旨みがソースと馴染んで、
 更に目玉焼きがまろやかに仕上げてくれる……はしまきサイコー!!」

「ティーソーダのリール草&ギコギコ草ブレンド……なんて、
 興味本位でつい買っちゃったけど……予想以上に美味しいね、コレ。
 自然な甘さと程良い酸味がサイダーの爽快感とマッチしてて、
 全体的に爽やかだし炭酸も強過ぎないからゴクゴクいけちゃうね~♪
 回復効果もあるし、スポーツ後とかお風呂上がりにも良さそう……ハマりそう」

「モモンガ焼き、ってモモンガを模ったベビーカステラだったんだねぇ。
 可愛い上にプレーン、チョコ、ストロベリーの3種類が味わえるし、
 中からは少し溶けたチョコが零れて、フォンダンショコラっぽいね!
 プレーンとチョコの組み合わせも良いけど、チョコ生地にホワイトチョコも
 ストロベリーにストロベリーもあるようで無くって、美味しいねぇ~♪」



「飯テロ実況じゃねぇか」

「必要エネルギーの補給、充電は完了している筈ですが、
 姫君を見ていると急激に減少して参りました……!」

「美味しそうに食べるキミも、幸せそうで良いと思うよ」

「?」

ちなみに余談だが、この幸せそうに食べる様子と食欲を刺激される実況の効果なのか、

これ等のメニューの売り上げはかなり増したとか。

意図せず宣伝効果を出しているビブリアであった……。

反逆の大地-Hells of Rebellion-番外編                     眠らぬ逆夢は気まぐれを泳ぐ~第4話~

〈注意事項〉

・このお話は「反逆の大地-Hells of Rebellion-」(ECOの同人作品)
 の、3次創作です。

第1話第2話第3話の続きとなります。
 そちらの注意事項含む、ご理解頂いた方だけお進み下さい。

・今回でラストです、長々とお付き合い頂きまして
 ありがとうございます。



それでは、どうぞ!

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反逆の大地-Hells of Rebellion-番外編                     眠らぬ逆夢は気まぐれを泳ぐ~第3話~

〈注意事項〉

・このお話は「反逆の大地-Hells of Rebellion-」(ECOの同人作品)
 の、3次創作です。

第1話第2話の続きとなります。
 そちらの注意事項含む、ご理解頂いた方だけお進み下さい。



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